いい加減にしてほしい、といえばライアンだ。
ライアンは引っ越してきて、うちの近所の小さいタバコエリア(もう灰皿が撤去されているから、休憩所)に座ってて、英語で道を聞かれたから、ちょっと話したくらいの知り合いだ。いや知り合いじゃない。それしか関係性がないんだから。
ライアンと顔を合わせても特に話はしない。話はしないんだけど、たまにそこの休憩所を俺が通りすぎる時にライアンが俺を呼ぶんだよね。
家で仕事しているときとか、ちょっと休憩に散歩にそこらへんまで歩いていくと、だいたいベンチに座っている。白いビニール袋に入れた缶と、若干ぼさっとした感じの白人男性。ライアン。そんで、どこの曲なのかわからない音楽ばっかり流れるラジオを持っている。
「HEY!! PAKO!!! (それで「俺の隣ちょっと座ってよ」とジェスチャーする)」
「Hey RYAN, whaaat's up...(といいながら別になにか聞きたいわけじゃない)」
ライアンはスマホはもってないけど、いっつも缶チューハイを持ってるから、ちょっと危ういのかな、と思うんだけど、ライアンはそこから見える山の景色をただただ缶チューハイを持ってみているのだった。
雪が降るまではいつ行ってもいるので、本当に何にもしていない可能性がある。
しかし、何を聞くにしても角が立つ感じがあるし、根掘り葉掘り聞きたくない。ライアンも聞いてこない。これを一年やっている。
俺が決めているのはラジオで一曲聴いたら、「I gotta go, bye!」すること。今日はもうあったかかったせいか、ちょっと散歩に行ったらライアンがいた。
「hey」とライアン。
「heey...(うー。また横に座るのか)」
座る。
今日はライアンをちょっと見てたんだけど、そういえばライアンっていくつなんだろう。三十代半ばくらいの、わりと体格ががっしりしていて、クマみたいなあごひげ含めたひげがもさもさの、野球帽みたいな帽子(こういうのなんていうんだっけ)をかぶっている。
今日はカントリーソングだ。カントリーソングはよくわからないけど、歌声とリズムが好きだ。
ちょっとライアンをみて、曲を聞いたら一曲が終わった。
立ち上がり、顔を見て「see ya」と言って立ち去る。ライアンも俺の顔をみて「ya」と言う。
なんなんだ。なんなんだよ。
とはいえ、特にこれ以上何がどうこうというわけでもない。変に踏み込んで仲良くなっても、近所だから関係がぎこちなくなったときに気まずすぎる。
いい加減にしてほしい。